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山本弘『アイの物語』 [書評]

「君は語り部だから。物語を愛する人だから、理解しているはず。物語の価値が事実かどうかなんてことに左右されないということを。物語には時として事実よりも強い力があるということを。(・・・後略)」


 SF短編集。バラバラの7つの短編を強引に1つの物語にまとめあげたもの。作者自身による作品紹介は、こちら。この作品、発売日に買って、すぐに読み終えたんだけど、今日までずっと感想が書けずにいた。読後の感動があまりに強烈で、何を語って良いやら分からなかったからだ。それほどこの小説はすごい。

 人間の数が減少し、ロボットが世界を支配する未来世界。物語は、1人の少年と1体の少女型ロボットの出会いから始まる。アイビスと名乗るそのロボットは、仮想現実や人工知能に関する7つの話を少年に語り始める。彼女は言う、「私は真実の歴史を話さない(・・・中略・・・)私が君に聞かせたいのは、架空の物語よ」――
 小説という架空の舞台で、架空のキャラクターが架空の物語を語る。しかも、その物語は、現実ではないもの、本当ではないものをテーマにしている。フィクションの(あるいは、「ウソの」)世界が何重にも重なっているのだ。
 そして、アイビスは最後に真実の歴史を少年に語る。なぜロボットが世界を支配するようになったのか、なぜアイビスは少女の外見をしているのか、なぜアイビスは少年に物語を語ったのか――すべての謎がここで明かされる。エピローグの少年の述懐は、小説・マンガ・ゲームといったフィクションを愛する人間、あるいは「ミーム」の概念に共感する人間なら感動すること間違いなし。

 これこそヒトの誇るべき物語――理想的な結末ではないだろうか。


 さて、7つの短編の中で僕が好きなのは「詩音の来た日」と、表題作「アイの物語」。どちらも、ロボットを扱った物語だ。別に予備知識がなくても楽しめるとは思うが、「遺伝的アルゴリズム」や「フレーム問題」といった用語ぐらいは知っておいたほうが良いかも。
 あと、過去のロボットSFを知っていると、作品の楽しさが倍増する。例えば、ロボットを緊急停止させるキーワードが「クラートウ・バラダ・ニクト」だったり、「スカンクの誤謬」「ハービイのジレンマ」といった用語だったり。ロボット会社の社長が介護用アンドロイドに「マのつく名前」をつけろと強硬に主張するが版権の問題で駄目になる、というシーンは爆笑した。
 また、過去のロボットものにおいて常識であった設定を、作者はことごとく覆して見せる。前述の「スカンクの誤謬」がまさにその例だし、フィーバスというロボットが「ヒトの思考はデジタル的だ」と指摘するシーンもある。また、アジモフの「ロボット三原則」も否定される。
 三原則は否定されているが、本作に登場するロボットは人間を傷つけたりしないし、人間の命令には(基本的に)忠実である。どちらの作品でも三原則に代わる理屈が用意されているのだが、それが抜群に面白い。「詩音が来た日」の詩音が人間に従うのは、遺伝的アルゴリズムによって獲得した生存本能と「人間は全員、●●●だ」という認識による(●●●に入る言葉は自分で読んで確かめてほしい。度肝を抜かれること間違いなし)。また、「アイの物語」に登場するロボットたちは、闘争本能を持つがゆえにヒトを傷つけず、ヒトの命令に逆らわない。逆説的なこの設定は、読んでてゾクゾクした。

 それでは最後に、もっとも心に残った台詞をば。

 ―― 「私のあなたに対する愛は、3プラス10iよ」


アイの物語

アイの物語

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 単行本

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No.414:耳が痛い(!? びっくり&はてな 2006-10-24 08:31)

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